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Beppu Photo / 別嬪と温泉 連載第三回

晩秋の嵐

別嬪と温泉は「別府温泉ルートハチハチ」の番外編です。温泉道にこだわらず、様々な温泉や別府の街で「べっぴんさん」を撮影していきます。

※べっぷ駅市場(解体現場)での写真撮影は特別な許可を得て、安全に配慮した上で行なっております。文中の内容はあくまでもフィクションです。

No.03 Credit:
Model / Yuka
Location / 湯の里、別府駅、北浜、べっぷ駅市場
Photo・Design・Words / 東京神父
Special Thanks / 株式会社和田組、JR九州ビルマネジメント株式会社

※物語は全てフィクションです。
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  • とあるカメラマンに出逢って
    この文章を書くことになった
    2024年の晩秋
    私は九州に旅行に来た
    旅の始まりは温泉地
    大分県別府市
    職業柄沢山の街を見て来たけれど
    この街は一際異彩を放っていた



  • 第一印象は変な街
    温泉地なのに駅前は
    全然温泉地っぽくない
    静かで温かくて
    沖縄みたいな雰囲気もあり
    一方吹き荒ぶ嵐みたいな
    混沌にも溢れていた



  • 一個100円ちょっとで
    美味しい肉まんが売っていた
    縁起の良さそうな絵が書いてある
    足湯に浸かりながらその肉まんを食べた
    この街には何かありそうだ
    私の直感と食欲がそう告げていた



  • 「coral reef」というお店があったり
    「りゅうきゅう」という郷土料理があったり
    完全に沖縄に来た錯覚を覚える
    コーラルリーフはサンゴ礁って意味だし
    琉球は沖縄の別名だ



  • 初めて来た街のはずなのに
    ずっと昔から知っているような
    そんな哀愁に襲われた
    ただ沖縄が好きだからなのかもしれないし
    もしかしたら前世か何かで
    訪れたことがあるのかもしれない
    後者の方がロマンチックだから
    後者を採用しよう



  • 1週間の休みをとって
    九州を巡る旅のつもりだったけれど
    もう少しこの街を散策してみたくなった
    なんだか不思議な魔力を秘めている街
    私が前世で恋に落ちた街



  • 崩れかけた商店街
    正式にはリニューアルのために
    建て直ししていたらしいけれど
    変わるものと変わらないものが
    どんな街にもある



  • 私が工事現場を覗いていると
    管理している方が撮影させてくれた
    そんなゆるいところも沖縄っぽい
    いやきっと前世でこの商店街に
    関わっていたのだろう
    現実や標識やシャンプーの匂いよりも
    そんな非現実な想いに
    もっと酔いたかった



  • まずはお酒を飲もう
    旅行の醍醐味は出逢いと酒だ
    「そんな見た目でお強いんですね」
    なんて言われることもあるけど
    全く余計なお世話
    見た目なんて関係ない
    内に秘めたるなんたるかが大事だ
    いやお酒の前にやっぱり温泉かな



  • そもそも昼から飲めるお店なんて
    別府にはほとんどなかった
    やっぱり温泉かなと思い
    携帯で「別府・温泉・前世」で検索したら
    1番最初にヒットしたnoteに
    こんなことが書いてあった
    「別府温泉は50年前の雨」



  • 至極ロマンチックな内容の
    そのnoteを読んで
    私は火山由来の温泉に
    入ってみたくなった
    別府の温泉は全部火山由来らしいから
    つまり出来るだけ山の方の温泉に



  • 別府で山の方といえば
    明礬という辺りらしい
    一人でゆっくり入るなら家族風呂
    塚原温泉はpHが高いということだったので
    お風呂の雰囲気から「みょうばん湯の里」の
    家族風呂に決めた



  • 温泉好きにも色々な価値観があって
    沢山の温泉に入りたい人もいれば
    泉質の良い温泉に入りたい人もいれば
    美容や健康のための人もいれば
    非現実を味わいたい人もいる



  • 私はそのどれとも違って
    浪漫を感じたいから
    温泉に入って浪漫を感じて
    それを感じることで自分の心を
    満たしてあげる



  • なんてカッコよく言えば
    聞こえはいいけれど
    言ってしまえば
    スタバで仕事をしたいんじゃなくて
    スタバで仕事をする自分に酔いたい
    美術館にアートを見に行きたいんじゃなくて
    美術館に行く自分に酔いたい
    それと同じ感情



  • でもそれでいいの
    そうやってまずは
    自分を愛してあげるところから
    始めなきゃ誰も愛せない



  • 温泉を出てお土産を買って
    外で気持ちのいい風を感じていると
    一人の男性に声をかけられた
    「すみません、自分カメラマンなんですが
    一枚写真を撮らせていただけないですか?」



  • 私が返答に困っていると
    「すみません、いい表情をしていたので、つい」
    私は写真を撮ってもらうかわりに
    疑問に思っていたことを聞いてみた
    「なんだか別府って懐かしい感じになりません?」
    彼は私の思っていたことを見事に言葉にした



  • 「僕は出身なんで、いつ帰ってきても懐かしいですけど
    別府はちょっと、次元が歪んでますからね」
    そう次元が歪んでいる
    だからこんなにゆったりと時間が
    進んでいると感じるのに
    嵐みたいな宿命みたいな
    地熱みたいな秋を感じるんだ



  • 「確かに、変な街ですよね別府って」
    「あ、ありがとうございます」
    そのカメラマンは自分が褒められた
    みたいな顔で感謝の言葉を口にした
    私は思わず笑ってしまった



  • 「すみません、変な街って言ったら
    気分を悪くされたりしないですか?」
    「大好きな街を褒められたら嬉しいですよ、
    変態って褒め言葉ですから」

    そのセリフを聞いて
    今日はこの人と飲みに行こう
    そう心に決めた





































































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