手紙人 No.002
松永 天馬 / Temma Matsunaga
「大切な2004年の松永天馬君へ」

    お元気…ではないでしょう。きっとあなたは病気がちの筈です。

    大学時代にずっと続けてきて、これからも続くものだとばかり思っていた劇団が空中分解し、落ちこみがちになり、精神的なものなのか、身体中に謎の発疹が出来たり、辛い時期だと思います。

    あなたは芝居だけでなく作家になるという夢も破れ、今は銀座にある小さな出版社で編集のバイトなんかをしながら、業界に潜りこみ、あわよくば何か書く仕事につければいいな、ぐらいに思っているのでしょう。
    詩や小説はお金にならないから、せめて趣味の延長として続けられればいいや、ぐらいに。甘いし、ネガティヴだけど、それだけ打ちひしがれていたということでしょう。

    先日、あなたが一年限定でやっていたヴィデオ日記…一日一分間だけ何かを写す、或いはカメラの前で一日に起こった出来事を説明する…を見返す機会があったのですが、どの日も見事に目が死んでいます。声にも覇気がありません。
    口調は所々皮肉っぽく、嫌な奴なんだろうなって感じ。それは今でも変わりませんが。
    あなたはその後思いつきの就活で電通の最終選考に残るも落ち、正社員採用されたスタジオ・ボイスの編集部はクビになり(ちなみにこの雑誌もその五年後には休刊します)
    ニートやバイトを繰り返しながら何故か音楽を本格的にやり始めます。
    バンドは十年後、まだまだですが、少なくともあなたが思っているよりはずっと成功しているでしょう。詩でも(歌詞というかたちですが)一応食べてますよ。
    あと、念願の作家デビューも一応してます。今も〆切五日前でアタフタしてはいますけど。

    あなたはこの年の誕生日、自分で自分に万年筆をプレゼントしていますね。
    作家への表層的な、青臭い憧れがそれをさせたのでしょうが、その万年筆は使わなくなり、すぐに錆びるかして壊れます。万年筆は使い続けないとすぐに不調を来たすのですよ。
    十年後、プレゼントされた新しい万年筆でこの手紙を書いてますが、
    今度はきちんと使い続けることが出来るのか、どうか見張っておいてやってくれませんか。
    これまでは十年何とかやってきたけれど、これから先も、死ぬまで書き続けられるのかどうか。
    僕は書きますよ。君も今この瞬間、きっと書いているのだから。

    松永天馬(十年後の。)






    手(hand)
    右利き(万年筆 / PARKER [5th urban premium])





    紙(paper)
    2004年の自分宛(原稿用紙 / KOKUYO [B4 ケ-10])





    人(person)
    松永 天馬(31歳 / ミュージシャン・作家)


    入筆時間
    30分
    好きな言葉
    薔薇がなくちゃ生きていけない
    好きな本
    レイモン・クノー「地下鉄のザジ」
    最後に手紙を書いたのは?
    いつだろう…。歌詞は手紙を宛てるつもりで書いています。
    手紙人になった感想
    久しぶりにペンと紙を使って長い文章を書いたので、言葉が文字となり、血肉に変わっていくのを体感しました。気持ちが良いですね。
    WEB
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